PSJ渋谷研究所X(臨時避難所2)

はてダ http://d.hatena.ne.jp/kamezo/ からインポートしただけ

【求む情報】自尊感情や自己肯定感の効用に関する実証的研究


本日は「教えてくん」で恐縮です。


子どもの問題行動と「自尊感情」や「自己肯定感」の関係について、どなたか実証データや実証的研究の例をご存知ですか? また、そうした研究を根拠として挙げている説明を見たことがありますか?


Webで検索できる範囲では、日本の児童心理や教育心理の世界では「自尊感情を適正な値に高める必要がある」のは「自明の前提」となっているようです。問題行動を起こす子どもや今の日本の子ども全般が「自尊感情が低い」とする調査結果も見つかります。自尊感情をポイント化して評価する「SE値」に関する説明なども見つけることは難しくはありませんでした。
しかし、肝心の「自尊感情を高めることは問題行動の改善に役立つ」ことの裏付けになりそうな説明や実証的データ、その有効性の範囲などに言及されたものは見つけられませんでした。
論文データベースもいくつか「自尊感情」「自己肯定感」などで当たってみたのですが、空振りでした、探し方が悪かった可能性はありますけど。


近所の大学の心理学の先生を訪ねてみようかとも思ったのですが、知り合いがいるわけではないので、そこまでやる前にここで聞いてみようと思いついた次第です。どなたか、根拠となる研究や参考になりそうな情報をご存知でしたら、教えてください。


いじめや自傷行為などの背景として「自尊感情」や「自己肯定感」が極端に低いことがあるという説明をよく見聞きします。また、自尊感情の低さはいまの日本の子どもの全体的な傾向であり、それが協調性の低さなどの問題行動の原因となっているのだという指摘も目にします。
なるほどそういうものかもしれないと、「したがって、自尊感情(や自己肯定感)を適正な値に高める必要がある」というような話にも素人ながら腑に落ちた気でおりました。


自尊感情を高めるための授業案も多数あるようです。
以下はNHKの番組で紹介されている例です。
http://www.nhk.or.jp/kokugo12/sen/15.html


自尊感情」や「自己肯定感」を高めることが子どもの問題行動の抑止や改善に広く有効だとする考え方が、現在の日本の心理学会(あるいは心理学者たちの間)や教育界には浸透しているのでしょうか。
それとも、それはもっと限定的に捉えられているのでしょうか。


また、アメリカでは自尊感情を人工的に高めることに批判的な論やそれを支える調査結果も出て来ているようです。
そうしたことはどのように受け止められているのでしょうか。


この話、お気づきの方はお気づきのように、kikulogの下記辺りのコメントのやり取りがきっかけです。
http://www.cp.cmc.osaka-u.ac.jp/%7Ekikuchi/weblog/index.php?UID=1164299987#CID1171318455
延々とコメントが続くので、全体を読もうとされる方は、それなりに覚悟を決める必要がありますが、私も前後にたまに出てきます。


リンク先のコメントでは、自尊感情アメリカ発のself-esteemが輸入されたものだが、「最近アメリカではこの“self-esteem 論”に対する批判が高まっています。」「ある研究では『いじめっ子』には『self-esteem の高い子』が多いということがわかったそうです。」という指摘とともに、2005年の『Scientific American』誌の記事が紹介されています。
http://www.sciam.com/article.cfm?articleID=000CB565-F330-11BE-AD0683414B7F0000
英語なのできちんと読めてはいないのですが、ここでは、むしろ自尊感情の高さが問題行動を引き起こす可能性が示唆されています(それぐらいはWeb翻訳でもおぼろげにわかった)。


#2007/4/7追記:翻訳を発見。詳細は「『日経サイエンス』に自己肯定感、自尊感情などについての記事」(2007/4/7)に。


あわてて付け加えますと、上記の記事などを根拠に「self-esteem論はすでに否定されているのではないか」とお尋ねしたいわけではありません。だって調べた限りでは、少なくとも日本ではそんなようすは見えないんですもの。上記の記事をどう捉えるかは聞いてみたい気もしますが、そもそも「実証的な根拠のある話なのだろうか」という疑問を解決できないでいるのです。
ただ、どうも「自尊感情(や自己肯定感)の向上がなんでも解決する」みたいな風潮になっているような気がしているのも事実です。


たとえば、こんな記事を読むとそう思ってしまいます。


東京都交通局:乗りごこち心理学 7
http://www.kotsu.metro.tokyo.jp/newsevent/magazine/gurutto/200403/p20.html


コメント欄で指摘されているような「謝ることができる人は、それで自分の価値が下がるとは思わないからか?」という疑問ではなく、あまりにも広い範囲に適用されている理論のような気がするのです(いや、そういう広い摘要ができる理論なのかもしれませんけどね)。
マスコミが誤謬をまき散らすことがあるのも事実です。肩書きが内容を保障しない場合があることも知っています(ざっと調べた限り、この執筆者はちゃんとした専門家のようですけど)。
これが拡大解釈なのだとすれば、拡大解釈が批判された途端に、正しい解釈まで一緒に批判にさらされるようなことが起き得る危険もあるかと思います。


もちろん、もしもすでに否定されている説に基づいての指導があるなら困りものだという気持ちもないわけではありませんが、それはほんの少しです(むしろ最先端の知見にはそういう毀誉褒貶というか紆余曲折はつきものなので、あわてて飛びつかない方がいいかもという気持ちがあります。self-esteem論を否定するにしろ肯定するにしろ)。


なにしろ手がかりを失ったような状態なので、誰かなにかご存知でしたら教えてください。