PSJ渋谷研究所X(臨時避難所2)

はてダ http://d.hatena.ne.jp/kamezo/ からインポートしただけ

「ライスはフォークの背に」は英国流?

昨日、こんな記事を見た。

gigazine.net

元ネタとして3つの記事がリンクされているが、なかではこれが詳しかったので一つだけリンク。

www.dailyexpress.com.my

英国の「マナー講師」(Gigazineは「自称マナー講師」としている。ネタ元の原文は「etiquette expert」なんだけど、そういう訳で合ってるのかな?)が、TikTokで「フォークの腹ですくって食べるような、掻き込むみたいな食べ方はよろしくない。ナイフでフォークの背に押し付けて食べるのが西洋でのフォーマル」という動画を公開した。すると、マレーシアなどアジア圏から「西洋人からコメの食べ方を教わるとは思わなかった」みたいな反発に遭い、動画を削除する羽目になった、という話(もっとも、Gigazineにはないけど元記事によると別のソーシャルメディアに再掲しているらしい)。

はてなブックマークでは「昭和の嘘マナーじゃなかったのか?」「まさか日本から逆輸入された?」「ヨーロッパ人が何をフォーマルとしようがアジア人がとやかく言う話じゃなくね?」「そもそも西洋料理のフォーマルで皿に盛りつけた白飯など出て来ない」「マナー講師はどこでも嫌われてるんだな」などというおおかたの反応に混じって、「英国ではそうなのよね」という反応も複数。なかには「イギリスではカレーライスまでこうやって食べてる」という話も。「イギリスとフランスで違う」という話もあった。

英国式なの!? 僕も日本のどこかで捏造された嘘マナーだと思っていたので、「イギリス式」という話に驚いた。で、検索してみたら、ちょっとおもしろかった。

と言っても、「正式なディナー ライス イギリス」でGoogle検索しただけ。国立国会図書館デジタルコレクション でも少し検索したけど、うまく拾えなかった(「フォーク ライス 米 マナー エチケット」を組み合わせを変えながら試しても関係ない話しかヒットしなかったのよね)。

この問題に関する記事はけっこういっぱいある模様。ほとんどの記事は、もちろん専門家(なんの?)や研究家とかが書いてるわけではなくて、まず出典はない。「調べてみました」とか「聞いた話」だ。なかには「その道」の人が書いたものもあるけど、「etiquette expert」? 料理研究家? いやあ、わからんわ。ときどき「現地で見た/体験した」という話もあるが、調査したとかいう話ではないので個人の見聞の範囲。まぁ、所詮はどれもうわさ話に近い信頼度とみなすことにして、いちいちリンクはしないことにした。この記事も、そういう有象無象の仲間入りですw

ネット記事では「『ライスをフォークの背に載せて食べる』のが正式という話は、日本では嘘だという話になっているがイギリスでは正式」とか「イギリスでは普通」という話がけっこうたくさん出てくる。「フランスではしない」「フランス式はフォークの腹」という話も一緒に出てくることが多い。ヨーロッパでは比較的コメを食べそうなスペインやイタリアなど地中海あたりのマナーの話は、探せばあるのかもしれないけど、この文脈では出て来ない。なかには「イギリスではそうするけど、別に正式なマナーというわけではなく、どっちでもいい」という記事もあった。

しかし、けっこう共通して「フォークを左手から右手に持ち帰るのはよろしくない」という話が出てくる(もっとも、それだってやっていいという記事もある)。あと「そうは言ってもめっちゃ難しい」という話もよく出てくるし、「正式な西洋料理ではライスなんか出ないから無意味な話題だよね」というツッコミもあちこちにありました。

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おもしろかったのは、「なぜイギリスでは背に載せるようになったのか」という話。多かったのは「イギリスではフォークの裏表を返すのもマナー違反だから」とか「表裏でも右左でも、食べる途中で持ち替えない方がスマートに見えるから」みたいな理由かな。多分ジョークだけど「イギリス人は不器用だから、フォークを持ったまま裏表をひっくり返すのをうまくできないから」という説を挙げている記事もあった(でもさぁ、日本の短粒種米みたいに粘り気のあるコメならともかく、海外に多いパラパラした長粒種米をフォークの背に載せるなんて、不器用じゃできないよね?w)。

なかには「イギリスではなんでもかんでもフォークの背に載せて食べる」という乱暴な話もあり、「それは無茶じゃね?w」と思ったり。

そんじゃあ、なぜイギリス式マナーが日本に入って広まったのか。それは帝国海軍由来だという説が、あちこちにありました。帝国海軍は英国式海軍だったのでライスの食べ方も英国式だというわけ。それが巷間に広まったと。もっともらしい(真偽不明)。

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んで、検索してたら、上の話がみんな入ったような動画があった。これはちょっと楽しかったので見せちゃおう。

www.youtube.com

「ライスとフォークM」と題された動画。「M」の意味も番組名も不明。〈2017-5-31 フジテレビにて放映〉だそうだ。右上にコーナー名?として「これって正しいの? フォークの背にライス/クリア イギリス人のマナー」とある。

番組は「洋食屋での日本人の食べ方を観察→日本滞在中の外国人にパブで食べてもらうと」と進む。日本人もフォーク背派は9人中1人と少数派(ていうか「洋食屋」なら箸じゃないんかい、一人もいなかったけどw)。ブリティッシュパブでステーキとライスを出すると、アメリカ人はフォークを右手に持ち替えて、フォークの腹ですくうように食べ「ステーキにライスはついてこない」、ドイツ人はナイフでフォークの腹にライスを盛り「ドイツではフォークでライスを食べるなんてしない」と。なんか申し訳ないねw

あらみんな、ライスを出されればフォークの腹ですくうように食べるのねと思ったら「イギリス人だけ、フォークの背だ!」となってました(3分25秒あたり)。

では、というので番組はイギリスで現地取材(4分ぐらいから。しかし調査が雑なのかちゃんとしてるのか難しい番組だなw)。現地で「みんな、細かいものはなんでもナイフでフォークの背に押し付けて食べるんだよ」みたいな話にたどり着きます。豆とか付け合わせの野菜みたいな「小さいもの」はフォークの先の方の背に載せて食べてる。そうかそうか「なんでもフォークの背」はこのことか?

もっとも、その後にフランス人に「それはよろしくない」と言われたりもする。番組調べではドイツ、アメリカ、タイや台湾の人もフランスと同じく「腹派」だそうです。そして、どっから来たの?という話になり、「海軍料理研究家」という方が旧海軍由来という話を披露。異説として銀座の洋食屋発祥という話も(同時にこの店が「パン皿にライスを盛るスタイルの発祥」という話まで)。

その後、つくば大学「おもてなし学」(そんなんあるのか)の客員教授が出てきて「これから子どもに教えるなら、フォークの腹に載せる食べ方がスマートだと思う。マナーも時代で変わることがある」と話して、これで終わりか?と思ったら、「そんなことより、皿を持ち上げてライスを食べる人がいるが、皿を持つのは西洋ではNGだからやめてくれ」と。そっちの方が大事なんですねw

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この動画の後で、「豆はつぶしてフォークの背だし、細かいものはだいたいフォークの背だから、ライスもその応用で自然にそうするだけ」なんて話も見たような。「先っちょになんか刺したりマッシュポテト載せたりすればストッパーになるから、その上に載せればフォークの背に載せても食べやすい」なんてTipsもあったような(マッシュポテトとライスを一度に食べるの?)。そんな話を読んでいると、「フォークの背で食べるのに慣れてるのね」とは思う。いちいちフォークを持ち変えたり裏返したりするのがめんどくさい、というか不自然に感じる、という動機や理由もあってもおかしくないような気もしてきた。

誰か、イギリスで王室を取材したり、ブリテン島界隈で調査してみたりしてくれればいいのにw

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あれこれ見終えて思う。

マナーにもお国柄はある。そりゃそうよな。西洋とひとくくりにはできない。そうですか(大陸式=コンチネンタルと、そうじゃないトラディショナルがあるんだっけ?)。

「フォーマルでは」というのも、考えてみるとどういう席なのか難しい(少なくともパブでの食事はフォーマルじゃなさそうだよなぁ)。宮廷みたいなところに招かれるなんてことは一生なさそうな僕らの人生で考えると、「冠婚葬祭」「結婚相手の両親との顔合わせ会」とか? あ、そうじゃなくても高級ホテルや高級レストランでのディナーはフォーマルか(行きそうにないなぁw)。

僕なんかが子どもの頃から言われたのは「人前では」とか「よその人と食事するときには」ってのはあった気がする。ご飯とかをかっこんだらあかんとか、飯椀と吸い物椀を両手に持って食べるなとか、迷い箸や突き箸はするなとか? こういうの、同じコメを食う国でも違うんだろうな。茶わんやおわんを手に持つのは下品ってのが韓国だっけ? 日本では持たないと「下品」「イヌ食い」なんて言われたり?

イギリスから連想する「階級社会」ということで言うと「労働者階級とミドル(中流?)で違うんだっけ? ミドルにもアッパーとローワーがある……んだよな? あとは上流階級……ってお貴族さまやセレブな方々?なのか? みんな同じ『マナー』とか『エチケット』ではないんだろうけど、『よほどの階級じゃないとやらない』という振るまいが上にも下にもあるんだろうなぁ」とかね。「フォーマル」てえのは、きっと上流階級の日常なんですかね。うまく想像できないけどw

あと、大英帝国のなかでもいろいろだったりしそう。ブリテン島のあたりだけでもイングランド式、スコットランド式、アイルランド式とあったりしない? オーストラリアは? カナダは? 旧植民地のインドではどうだろう。上流と庶民で違う? 今はみんな手で食べるんだったりするのかな。んなことないか?

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「マナーというのは、周囲を不快にさせず、自分も快適でいられる方法」という理屈で考えると「フォークの背か腹か」はどうでもいい、ような気がする。が仮に万が一、海外のおハイソな方と、どういう巡り合わせか一緒に食事をすることになったとして、「イギリス式とフランス式のどっちがお気に召しますか? アメリカンスタイルではおイヤでしょうか?」なんて訊く? もっとも格調高いのは……やっぱり国によって違うだろうなぁw

そういえば、「スプーンに持ち変える」という人は出て来なかったな。仮に自分がファミレスでハンバーグランチかなんか食べるとして、フォークを右手に持ち変えて腹で食べるかな。フォークやナイフもそこそこ使えるから「スプーンかお箸はありませんか?」と訊こうとは思わないけど、最近はカトラリー(近年覚えた単語)が席に置いてあるから、持ち変えちゃうかもだな。カレーライスならスプーン一択です(小学校の林間学校だか修学旅行でカレーに箸を出されて往生したっけなあ)。

「郷に入っては郷に従え」だと、どうなるんだ。イギリスに行ったらイギリス式? ほかの国ではフランス式やアメリカ式? インドだと? 植民地時代の宗主国で決めたり? いや、海外なんか行かないけど。あ、そうか、フォーマルな席で白飯なんか出ないから気にしなくてもいいんだっけ? でも、豆とか細かいものは出る?

「私は日本人なので、これが正式なマナーです」と言えるスタイルがあると一番いいのだろうか……。植民地でいばってる宗主国の人や「おらが村が絶対」な人みたいに「箸を持ってきなさい。あと今日は大目に見ますが、私の分の米飯は以後ちゃんと飯椀に盛りなさい」なんて言う気にはならないしなぁw

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経緯はきっと「かつての日本は西洋料理のマナーは英国式でした。後にフレンチが広まって『フランス式が正しい』とされた時期もありました。今もその影響は強いです。しかし今の日本でポピュラーなのはアメリカ式ですね」って感じだよな。でも、これ食事のときに説明……するの? 食卓の話の種になってよろしい? もしも「そんな食べ方」とたしなめられたり、顔をしかめられたりしたら、そのときに言えばいいかw