PSJ渋谷研究所X(臨時避難所2)

はてダ http://d.hatena.ne.jp/kamezo/ からインポートしただけ

Appleロゴが創造的活動を促す?


めでたく復活なったTAKESANさんちで下記のエントリを読みました。


伝言ゲームのように(Interdisciplinary 2008年3月21日)


ITmedia Newsの「『Apple』のロゴを見るだけで創造性が上昇――デューク大学調査」(2008年03月20日)という記事や、その記事についたはてなブックマークのコメントについてのもの。

やっぱタイトルがおかしいよね。
最後の段落にある研究者の弁も、こういう類の研究から言うのは早計なのではないか、と思いますけれど、それにしても、
ブランドのイメージは想像以上に人々の潜在意識に大きな影響を及ぼすことが、調査から明らかになった。
という研究結果から、
Apple」のロゴを見るだけで創造性が上昇
という見出しをつけるのは、ものを注意深く見る読者からは、懐疑の目で捉えられるでしょう。
ぼくも「そうだよなあ、ITmediaも海外の記事から、いい加減な引き写しでもしてるんじゃないのぉ?」なんて思ったんですよ。


が、ちょっとググってみたら、もうちょっとイヤな話だったのかも。
少なくともこの記事は、メディアの誠実さと練度の問題、そして研究者の誠実さの問題、両方の問題を投げかけているように思います。


この件を報じた海外のニュースサイトは、ググって上位に来たものを見るとこんな感じ。


Apple's Logo Makes You More Creative Than IBM's -- Advertising -- InformationWeek (3 19, 2008)


同じ記事が下記にも出てます。


Apple's Logo Makes You More Creative Than IBM's (TMCnet On the Web, March 20, 2008)


ぼくの英語力で全体をちゃんと理解しようなんて大それたことは考えてない。前者は広告系のサイトで、後者は技術系のサイトみたい。どうも記事の配信元らしい「CMP Media」ってのが広告系なんだな。
見出しはITmediaなみ。だけど、かなり多い文章量に見える。で、サブリミナル効果についてこれまでどういう話が出ていたのかぐらいは、ちゃんと書かれているようだ。


ITmediaの記事には、サブリミナル効果の話は一言も出て来ない。


「んもう」なんて思ったのだけど、あれ? このサブリミナル効果の話って……??

A 2006 paper by researchers in the Netherlands, "Beyond Vicary's fantasies: The impact of subliminal priming and brand choice," claims that the subliminal priming of a brand-name drink can influence consumer drink choice, provided the consumer is thirsty to begin with.


(てきとー訳)
オランダの研究者による2006年の論文『ヴィカリのおとぎ話を越えて−−サブリミナル刺激とブランド選択(PDF)』は、喉が乾いている消費者にだったら、飲料品ブランド名の識閾下刺激によって、飲み物の選択に影響を及ぼすことができると主張した。


い、いつの間にそんなことに。


タイトルについて言うと、デューク大学なんちゃらビジネススクールニュースリリースからして、これだ。
Apple Really Does Make You "Think Different" - The Fuqua School of Business - Duke University (News Release, March 18 , 2008)


このニュースリリースではサブリミナル効果についても触れられている。


ITmediaでソースとされている「(JOURNAL OF CONSUMER RESEARCH」での論文(?)名だって五十歩百歩(下記はアブストラクト)。
Automatic Effects of Brand Exposure on Motivated Behavior: How Apple Makes You “Think Different” (JOURNAL OF CONSUMER RESEARCH, Electronically published March 4, 2008)


えーとですね、ITmediaはニュースサイトからネタを拾ったのではなくて、デューク大学の元ネタに当たっていても、同じ見出しをつけたのかもしれない。


だって、デューク大学なんちゃらビジネススクールマーケティング心理学の教授准教授、カナダのワーテルロー(ん? ウォータールーか?)大学の社会心理学の准教授が言ってるのは、どうやら「サブリミナル効果はほんとみたいだよ、だって、Apple社のロゴとIBM社のロゴ、それからディズニー社のロゴとE! Channel社のロゴで実験したら、被験者になった学生たちには、それぞれに異なる影響を受けたと考えられる偏りが見られたんだもの」ということらしいので。


この調査結果がどういう意味があると言っているのか−−例えば、被験者がそのブランドに対して抱いているイメージに沿った行動をしようとしたということなのか、もっと別の意味があるという話なのか、そこら辺はぼくの英語力ではわからん。わからんけど、彼らが「はっきり見てとれたこと」と考えているのは「Appleロゴを閾域下で見せられた学生は、IBMロゴを見せられたときよりも、実験者が『創造的』とみなす行動をとり、Disneyロゴの場合はE! Channel社のロゴのときよりも『正直』とみなす行動をとった」ということになっているわけですね。


じゃあ、ITmediaがああいう記事にしちゃったのはしかたがないのか。実は、もうちょっと検索結果をほじくってみると、こんな記事もありましたんですよ。


Duke, UW Researchers Claim IBM, Apple Logos Have Subliminal Effects (DailyTech, March 20, 2008)

While it may border on pseudo-science, researchers at Duke University's Fuqua School of Business and Canada's University of Waterloo released research claiming that exposure to familiar commercial logos greatly changes the viewers thinking. Hot on the heels of another study examining the Mac "snob effect" the new study claims that exposure to Apple's traditional rainbow-striped logo induces creative thinking in the viewer.


(てきとー訳)
ニセ科学に近いかもしれないが、デューク大学のFuquaビジネススクールとカナダのウォータールー大学の研究者は、身近な商業ロゴへの曝露が、見た者の思考に強い影響を与えると主張する研究を発表した。この新しい研究は、Macの「スノッブ効果」を調べる別の研究の直後に行われたもので、アップルの伝統的な虹色のロゴへの曝露が、見た者に創造的思考を引き起こすと主張している。


ニセ科学に近いかもしれない」という見方もあるわけ。


発表されたリリースや論文のどこに着目して、どういう見出しや内容の記事に仕立てるか、これはなかなか難しい問題ではあります。ではありますが、なんと言いましょうか、やっぱりメディアには、もちょっと誠実さと練度が求められるんではないでしょうかね。これじゃ「警察発表をそのまま記事にしました」と同じですよね。実態として「ちょっと疑問はあったんですけど、そのままで」なんだか、それとも「疑問にも思いませんでした」なのかはわかんないわけですけどね、どっちにしても無責任と言われてもしかたがなくない? 高望みし過ぎ? そうでもないと思うんですけどね。


ところで、マーケティング心理学と訳したのは、原語では「Marketing and Psychology」であります。これ「マーケティング理論『と』心理学」とかだったりするのかも。その辺は、ちょっと調べたぐらいではわかりませんでした。すんません。
んで、「Marketing and Psychology」とか社会心理学なんてことをやっている人だから、こういう耳目を引きやすそうな論文名にしちゃうのかなあ? なんてイヤなことも考えました。偏見です。すいません。