PSJ渋谷研究所X(臨時避難所2)

はてダ http://d.hatena.ne.jp/kamezo/ からインポートしただけ

現代社会における「科学的様式」と宗教的信念 −沖縄における「EM(有用微生物群)」を事例に−


b:id:OSATOさんのブックマークから。
http://b.hatena.ne.jp/OSATO/20090131#bookmark-11912745


オリジナル(北大サーバーのPDF)から全文コピペ。
http://humansci.let.hokudai.ac.jp/g/es/report/14.pdf

人文科学における実証的研究者の育成拠点<経費支援(研修等)報告書>


学生名:吉野航一
所 属:システム科学講座
学 年:博士後期期課程2 年
指導教員:櫻井義秀
研究支援課題現代社会における「科学的様式」と宗教的信念 ―沖縄における「EM(有用微生物群)」を事例に―
研究支援受入機関・団体名:「宗教と社会」学会第16 回学術大会
研究支援期間:平成 20 年 6 月 14 日~平成 20 年 6 月 16 日
研修した内容:「宗教と社会」学会第16 回学術大会での口頭発表

研修の成果:

 近年、「スピリチュアル」と言われる現象の一部に関して、様々な批判がなされている。そこでは「スピリチュアル・カウンセリング」などは「科学的」なカウンセリングでない、あるいは「霊感商法」につながっているなどの批判が見られる。一方、それと軌を一にするように、「疑似科学」に対する批判もメディアやネットなどで行われている。「疑似科学」への批判には、「正当/正統」な科学の領域を侵していることや、「教育」の場で使われる問題などがある。
 スピリチュアリティといった従来の「宗教」とは異なる宗教現象が広まり、そのような現象の1 つの側面として、科学的には疑わしい「科学的様式」が使用されている。たとえば、「波動」や「オーラ」などは、科学的な専門用語(物理学的、心理学的な言葉)によって説明される。しかし、このような現象は、ある特殊な信念(「宗教」的とも言われる信念)によって支えられている側面が大きい。本発表は、そのような特徴を持つとされる「EM(有用微生物群)」を事例に、どのような沖縄の政治的・経済的な状況の下で、「EM」は公的機関や教育機関で構築されてきたのかを明らかにする。そして、「疑似科学」や「スピリチュアル」をめぐる言説/活動についても考察していった。
 発表では、①それがどのように地域社会(行政・議会・大学機関)の中で語られ/扱われてきたのかを明らかにする。そして、「EM」はどのような「沖縄社会」の中で「構築」されてきたのかを考察していった。また、②他の「疑似科学」も含め、現代社会においてそれらが持つ特徴や「問題」についても考察していく。「疑似科学」は、政治・経済・教育・宗教などの様々な社会制度とそれらが持つ知識・意味の影響を受けて成立しているものと捉える。
 「EM(有用微生物群)」とは、琉球大学の教授(現在は名桜大学)が「発見」した農業資材である。この「EM」の効果は農業分野だけでなく医療や建築分野にも及び、「EM は万能」であると謳われている。しかし、その効果と科学的根拠については疑問が提示されている。そのため、公的機関や教育機関が、現代科学を否定/無視するような信念、あるいは「宗教」的ともとれるような信念に基づく資材を無批判に取り扱うこと(推奨すること)の問題が指摘されている。
 具体的には、①沖縄県うるま市の職員への聞き取りと議会議事録、②名桜大学の関係者への聞き取り、③公共建築物資材への「EM」混入を訴えた旧具志川市の市民団体への聞き取りとその裁判資料、④「EM」に関するマスコミ報道、⑤「EM」の発見者や「EM」を支持する人々の著作などを基に、沖縄における「EM」をめぐる活動(「EM」を取り巻く人々の言説と、それによって構築された「EM 問題」)を明らかにした。
 これらへの調査から見えた「EM」を取り巻く概要は次の通りであった。①沖縄県は「EM」を積極的に「後援」するが、その背景には経済問題(高い失業率、基地依存経済からの脱却)の解決を「EM」に期待していたことがある。②県の上層部は県の各研究機関に「EM」を調査させたが、その調査はEMの科学的な効果を証明しなかった。③しかし、農業分野では様々な利害関係者の関与と「EM」への「信念」があり、調査結果は県の取り組みを変更させるものでなかった。④現在では、知事の交代や外部評価によって農業試験場での「EM」に関する研究が中止となり、県の「EM」への関与は減少していった。⑤一方、うるま市(旧具志川市)は、政策として「EM」を推進し、農業政策や環境教育の1 つとして「EM」を用いていた(県でも環境教育には否定的でなかった)。⑥しかし、うるま市は、裁判では市民団体の訴えは退けられたにも係わらず、建築資材への「EM」の投入を中止することになった。⑤そのような中、名桜大学は、「EM」の発見者を迎えて「国際EM 技術研究所」を設置し、一般教養の授業の1 つとして「EM」に関する講義を行っている。
 「EM」現象の特徴として、「EM」を肯定的に評価する人々は、一足飛びに現状の解決を「EM」に求めている点がある。「EM」は経済・農業・環境問題の解決(地域発展)を一手に引き受けてきた(引き受けさせられていた)。そして、「EM」における考え方は非常に分かりやすいため、教育現場でも「EM」は魅力的な良き「教材」であった。「EM」は、問題解決への煩雑な科学的検討やそれ自身への批判的思考なしに、子供たちに解決策を教えることができるのである(もちろん、大人にとっても同様である)。
 しかし、「EM」を含め、「疑似科学」は安易に問題の解決を期待させ、科学的な思考の軽視を助長させるとの批判がある。さらに、そのような疑似科学と軌を一にする「スピリチュアル・カウンセリング」などは、悪質/霊感商法などに繋がるのではないかとの指摘もある。本発表では、「EM」だけに留まらず、このような「疑似科学」や「スピリチュアル」に関する「問題」を構築している言説や活動についても、考察していった。
 このような口頭発表に対する質疑に答えることで、今後の投稿論文作成に関して、有意義な知見を得ることができた。また、その投稿論文を基に、博士論文へと発展させていくことが可能になると考える。そのため、この研修は非常に有意義なものであった。

成果の公表予定

 本年に「宗教と社会」学会の学会誌へ投稿する

http://wwwsoc.nii.ac.jp/jasrs/