PSJ渋谷研究所X(臨時避難所2)

はてダ http://d.hatena.ne.jp/kamezo/ からインポートしただけ

「神の手」はどこから来たのか【加筆・修正あり】


この夏、「神の手」と称するチェーンメールが出回った。こんな感じの内容だ。


Sample1 Sample2 Sample3


実際に受け取った人も少なくないだろう。
つい先日、ぼくの友人も「友人からもらった写真」ということで日記に(若干懐疑的に)採り上げていた。そこで物好きにもちょっと出所を調べてみる気になった。結果は、あまりにも意外なものだった、ホント。


結論から言うと、これは「Cloud of Goatse」とか「The Goatse Cloud Formation」と呼ばれるジョーク画像で、遅くも2005年の7月頃には→2004年の9月以降には国内でも2003年の8月にはネットに上がっていることが確認できた(2007/11/23、12/5修正。コメント欄の各日の投稿を参照)。


Goatseとはなにか? この画像のどこがジョークなのか? どうやってそこにたどりついたのか? 確かな話なのか? それを知りたい人は、以下を気長にご覧いただきたい。


2007.12.7追記:「文章が長い」「全部読むのは大変」というご指摘が散見されるようになったので(そりゃそうだ)、簡潔な結論だけが欲しい人のための説明を作りました。


2007.9.21追加:
ちょこちょこ読みにきてくれる人がいるようなので、気長に読むのがいやな場合用にgifアニメを作成してみた。
http://shibuken.up.seesaa.net/image/godhands.gif
でも、これだけ見てもなんだかわからないかも。ソースなど詳細を含めて、やっぱり下記の「海外を探索してみる」だけでも読むしかないかも。
2007.11.20追加:
この写真の真偽を調べてここへたどり着いた方々へのお願い
11月に入ってから、このチェーンメール再流行しているようです。この記事を眺めて「どうもウソみたいだな」と思えたら、できれば「なーんだ」で済ませないでくれるとうれしいです。
もしあなたがブロガーなら、「ガセだとわかったから記事にするのをやめる」のではなく、「ちょっと調べたら、どうもガセみたいだよ」なんて記事にしませんか?
もしあなたがどこかの記事を読んだ読者なら。その記事を書いた人に教えてあげませんか? 信じて盛り上がっちゃってるブログで書きにくければ、管理者のみに見えるコメントにするとか。
追伸@11/22 13:38 やりすぎないでね! 注文が多くて申し訳ないけど、わざわざ探し出してまでご注進するようなもんではないと思うよ。そこまでしたらお節介を通り越して、SPAMer扱いされちゃうかもしれませんよ。]
もちろん、この記事をネタ元にしても、そうでなくてもいいです。その辺はお好みでどうぞ。
ちょっと考えてみて下さい。よろしくお願い致します。


■ブログ探索してみる
このチェーンメールや写真を上記のようにブログ等で紹介している人は多数いる。「神の手 雲」なんて感じで検索すると、たーくさんヒットする。少なからぬ記事で「今年の台風4号が通過したときに沖縄で撮影された」と書かれている。7月22日だとか14日だとかと日付を特定している例もあるし、沖縄ではなく福岡としている例も長野としている例もあった。


ブログでは、今年の最も早そうな掲載例は7月10日前後。8日9日10日11日で観測できる。7月14日とか22日とかいうのはガセだとわかる。
上記の例では8日のケースでは長野の写真とされ、9日のケースでは写真がない。10日の例はメールでもらったとも場所も書かれていないが、11日のケースはすでに「知り合いの知り合い(文中では「どなたか」)」からメールで、という具合になっている。ただしどの例でも沖縄とは書かれていない。


7月17日には「今日の沖縄の空」という話があり、「神の手という非常に珍しい現象」なんていう解説がある。


神の手(2007/7/17 OZの魔法使い)
http://blogs.yahoo.co.jp/oz_intrnational/22190185.html


7月18日には、沖縄出張中の上司から携帯メールで送られて来たため、部下は「上司が沖縄で携帯写真で撮影した」と思い込んでブログに掲載してしまい、混乱を来した……というような話が見つかる。これが「沖縄」の初出だったかどうかは忘れた(汗


神の手が沖縄の空に・・・!?実は(2007.07.18 アマテラスの伝言)
http://blog.lesdauphins.jp/?eid=610817


この記事では「実は昨年に出回った写真であるとの連絡をいただきました」という情報も得られる。


■疑う人の出現
7月20日と23日には、「波動測定を得意とする友人」に調べてもらったらニセモノくさいという結論が出たという話が出てくる。


チェーンメール1(2007年7月20日 愛と真実に向かって‥真理と光の時代へ?)
http://shinyuhide.air-nifty.com/blog/2007/07/1_5e1a.html


チェーンメール2(2007年7月23日 愛と真実に向かって‥真理と光の時代へ?)
http://shinyuhide.air-nifty.com/blog/2007/07/2_da28.html


よりにもよって波動測定器なのか、という気はするが、なんていうんでしょうか、スピリチュアルっぽいものならなんでも信じるわけじゃないんですね、というところはちょっと感心。


7月30日には「作り物ではないの?」ということで、手元の別の写真を使って「同じようなことは、簡単にできるよ」ということを示している方がいる。


「神の手」は本物か!?!?(2007/7/30 ★☆らんちう☆★)
http://blogs.yahoo.co.jp/goldfish_rantyu/34755102.html


もちろん同じようなものが作れるからといって、あれがニセモノだという証拠にはならない。でも、コメント欄でそんなやりとりが見られる。


この調査(なんて大げさなものではないけど)の過程で、なんとなくチェーンメール化していく過程が追えているように見えるけど、まあサンプルの並べ方のせいかもしれない。ほかにも紹介しているブログがいーっぱいあるから、これだけでそこまでわかったと言うつもりはない。


もひとつおまけに、雲間から放射状に漏れる光の筋などを英語で「神の手」と呼ぶらしいということもわかった。「TOKYO 徒然草 第6回」の4点目の写真のキャプションがそれ。こっちの写真なんかもそういう意味での仲間かもしれませんね。


■海外を探索してみる
日本語のブログ検索では、6月になるとこの内容のものはぱったり引っかからなくなる。2006年も少し調べたが簡単には見つけられそうにない。そこで今度は海外のサイトを調べてみた。Googleで「God's Hand」で検索してもあまり収穫はない。じゃあってんで、今度は「Hands Of God」で検索。「Hands Of God Seen In Clouds」という記事がヒット。
また別の写真とともに「To my knowledge, these two images below weren't tempered in no way, using photoshop nor simmilar image editing tools.(私の知る限り、Photoshopやなんかで加工したもんじゃない)」とかなんとか言われている。これが2006年5月30日。


今度は「Hands Of God Seen In Clouds」で検索。すると「God’s Hands」という記事を発見(語順ってどうなってんねん)。2007年4月24日のものだ。
はっきりと手が分かる写真と、手の部分がふつうの雲の状態になっている写真が並べて示され、前者が「edited photo」、後者が「original photo」と書かれている。
説明によると

Cara Winship sent this out it is called: God’s hands. She took this picture on Hwy 30, traveling to London, Kentucky. It has given her strength in her times of trouble. She feels she should share it with the rest of the world. We have a God and he’s watching over us.
She e-mailed this picture to News Channel 36 and was contacted by Meteorologist John James. He said that this picture is showing up in all states, around the world. Through each person under the sun, let the will of the Creator be done.
っていうんだけど、なんかよくわかんない。Cara Winshipっていう人がKentuckyのLondonで撮影したって言ってるんじゃない? だけど、本物だって言ってるの? じゃあ、このoriginal photoってなに?


■「都市伝説情報源」
というわけで、さらに検索。たどり着いたのが「Urban Legends Reference Pages」というサイト。えーと訳すと「都市伝説情報源」てなところなんでしょうか。もろじゃん。


The Hands of God (Last Updated 2007.6.15., Urban Legends Reference Pages)
http://www.snopes.com/photos/natural/godhands.asp


ばっさりです。

Claim: Photograph shows God's hands in a cloud formation.
Status: False.
ええと「事例:雲の形が神の手に見える写真/判定:ニセモノ」って感じでしょうか。2004年と2007年のメールなるものが掲載され、例のケンタッキーのロンドンでなんとかという話がでて来ます。そんでもって、見た人の多くは「Goatse.cx の写真に似てる」と言ったとか、「その写真を作ったのは私です。元は www.shacknews.com へ投稿されたものです。goatse.cx へのオマージュとして作りました。でも、もう手元にありません。加工するのにちょうど2分かかりました」なんていう人がでてきます。


先のサイトは、ここをネタ元にしていたのかもしれませんね。ただ、重要かもしれないのは、先に「original photo」と紹介されていた写真が、ここでは「オリジナルはこんな感じだった」というような紹介のされかたをしていること。つまり、元データは失われていて、これは再現写真なのだ。
ほんと引用って、どこでどうネジレていくんだか。


■理解のカギはゴートシーだった
「はぁ? そんだけ?」って感じですよね。「オレが作った」っていう人を信じて終わり? ひょっとすると「このサイト自体がネタサイトなんじゃない?」なんて疑いも湧いてくる。


腑に落ちないので「shacknews.com」を見てみましたけど「?」は消えない。
なので、「Goatse.cx(ゴートシー)」を調べてみました。
まず実際にサイトを見てみたら、最低の冗談というかシモネタ・オゲレツ画像の山です。これがなんの関係があるのかわからず、さらにググってみて、どういうサイトなのかがやっとわかりました。悪名高いショキング画像収集サイトらしいんですね。じゃ、あの写真も冗談写真? なんか、全然そう思えないんだけど。で、さらにゴートシーに戻っていくつものヒドい写真を見なおし、さらにさらにもう一度「神の手」の写真を見なおす。


あああっ!
「神の手」と称する写真の意味が、突然、鮮明にわかったんです。で、なぁるほどここが出所か、そうかそうか、そうだろうそうだろう、ってなもんです。完全に腑に落ちます。


でも、これじゃ納得できないですよね。ええと、言葉で説明するのは公序良俗に反するような気がするんですが、まあ、その、あの写真は、まず「空中にオケツがある」とみなしているんですね。それから、両手で黄門さまをオープンしている、と、そういう絵面なんです。ゴートシーには、砂浜だとかケーキだとかそういう当たり前のものを使って似たような構図の写真に仕立てている「作品」がわんさかあるんです。


■「オゲレツシモネタギャグ写真」が結論でいいのか?
いやあの、実証性という点ではどうかな、と私も思いますよ。ちゃんと証明されたとは言えませんよね。
だから、「まだ納得できない」という人がいるのはわかります。実際にゴートーシーを見てみないと納得できないかもしれない。おそらく、どれでもいいから、いくつか写真を見てみると、ある部分がそっくりな表現がたくさんあることに気づくだろう(お断りしておきますが、愉快な写真じゃないですよ、多分。ボクはキライです、こういう写真は。やめといた方がいいですよ。止めましたからね。引用元でリンクされていたのはTribute to Goatse.cxでしたけど、これで十分です。なかでは「watermelon goatse」ってのが、あんまり強烈じゃなくていいんじゃないかと思う。間違っても本家サイトなんか探す価値はないと思う)。


さて、最初の方で紹介した「Cloud of Goatse」とか「The Goatse Cloud Formation」は、ここまでの事情が分かってから見つけたものだ。「ということは、オリジナルではなくても見た人がどこかにアップしてるんじゃないか?」と「goatse cloud」で検索してみたのだ。「Cloud of Goatse」は26か月前=2005年7月の投稿、もうひとつは2005年11月の日付だが、もっと古いものもあるのかもしれない(先の記事では2004年のメールとかも出て来てたものね)。



「Urban Legends Reference Pages」で、この写真について「人は宗教的なものや神秘的なものを見いだしてしまうものだ」ってな話が書かれているんですが、同時にコッケイなものや、オゲレツなものも見いだしてしまう生き物なんですよね。この写真の由来の真偽はともかく、これ以上探索する気力は失いました
上記の方々にも、あんまり気の毒なのでトラックバックはしません。


それにしても、まさかこんなオチとはなああ……。


■おまけ
あんまりなので、口直し。先にもちょっと書いたように、こういうのも英語圏では「神の手」と呼ぶようです。いずれも美しい写真です。


Hand of God
http://www.trekearth.com/gallery/Africa/South_Africa/photo416214.htm


"Hand of God reaching down"(一番下の2点の写真)
http://www.ce.berkeley.edu/%7Emancio/photos.html


Hand of God
http://www.sxc.hu/photo/682647

■簡潔な結論(2007.12.7追加)
この画像は、下品な冗談画像です。ふつうの風景写真にデジタル技術で手の形を加えたもので、チェーンメール化して国内外で何年にもわたって流行しています。


元写真の撮影場所は、流行の経緯や画像下部の自動車や電柱等から、海外だと考えるのが順当です(沖縄、長野、上越などの説は、いずれも今年になってからしか観測されていません)。
作成者だと名乗る人物が、加工の目的は、下品な冗談(肛門を開いてみせる男)をマネた画像に仕立てることだったと語っています。
少なくとも2003年以前からネットに出回っています。その頃まではギャグ画像、ネタ画像という「正しい」扱いがされていました。「Gods Hand」等の「神秘的ななにか」という解釈は、2004年頃に、どこかから突然わいて出てきました。
「幸運が云々」等という話は2007年になってから、日本のどこかで勝手に付け加えられた尾ひれです。なんの根拠もありません。


つまり、神秘的な自然現象等との関係があると考える理由は、どこにもありません。


【blog主の意見】(2007.12.7追加)
もちろん、どんなものでも、喜んだり、大事にしたりする自由が誰にでもあります。しかし、下品なギャグ写真というのは、誰にでも見せていいものとは言えないでしょう。同好の士の間で密かにやりとりされるのが、ふさわしいと思います。
また、より多くの人へのメール送信を勧めるような内容のメールは、その主旨がどのような善意に基づくものでも、チェーンメール以外の何ものでもありません。インターネットの無力化に微力ながら尽くそうと思うのであれば別ですが、そうでないのであれば、自分のところで止めましょう。


■教訓
「神の手」の少し前には「神の目」と題する写真が飛び交った。送られて来るメールは「7月7日の七夕までにこれを見ると7つの願い事がかなう」とかなんとかいう内容だったようだ。こちらは以前マイミクさん(「神の手」とは別の人)が日記に書いていたので調べていたのだが、オリジナル写真は、ハッブルが撮影した写真とNOAOの撮影した写真を合成した惑星状星雲NGC7293のものだった。2002年の撮影で2003年に発表されたものだ。


そんなわけで、今回の教訓。


1. 引用が正しくされていない(出所が明確でない)情報を信じない。
2. チェーンメールを信じない、回さない。
3. 自然だって食べ物だって、いろんなものに見えます。人間だもの。