PSJ渋谷研究所X(臨時避難所2)

はてダ http://d.hatena.ne.jp/kamezo/ からインポートしただけ

当事者が変な表現をしてるなら、報道はそれをそのまま使っていい?【追記あり】


名古屋の弁護士複数が、「行列のできる」弁護士を、著作権侵害で訴えたそうな。70カ所以上にわたって図版を複製・翻案したとのこと。


ちゃんとした引用ならば別に無断でも構わないんだけど、引用の要件(同一性保持だの出典の明示だの、いくつかある)を満たしていないと著作権侵害に問われることになる。今回の件は、訴えられた側は問題ないと考えているとのことなので、個別に要件を満たしているかどうかが争点になるのでしょう。


んで、それはいいんだけど、気持ち悪いのは、原告が「無断で引用」なる珍奇な表現を使っているらしい(どうしてそれが珍奇なのかはエントリ末尾参照)。それをそのまま報道で使っているメディアがあるんですよね。素人さんなら仕方ないんだけど、弁護士が使ったから「言い分がおかしいよ」って意味で出しているのかっていうと、そういうわけでもなさそう。なんなんだろう、これは。


今回の件で見出しや本文中で「無断引用」「無断で引用」と書いたのは共同通信毎日新聞産經新聞。各社とも原告の発言を引いた形にはしてある。

西日本新聞河北新報もだった。でも文面から見るに共同通信の配信でしょうね。(16:01追記


ほかの各社は「無断引用」等とは書いていない。


16:58追記id:Neanさんのブクマで下記の報道を知りました。「知財情報局」なんて媒体があったのね。あ、訴状も見られるんだ、すごーい。


これ、「無断引用」という表現は変だよということについて、メディアにはだいぶ理解が浸透したということでしょうか(法律家でも理解が十分でない方がいてもおかしくはない。ただ、仮に著作権法が専門じゃなくても訴訟前には調べてるんだろうから、コメント発表時にも気をつけようよ、とは思う)。


原告側が不適切な表現を使っていた場合、報道でその表現をそのまま引用するのは妥当かどうか。「客観報道」とかいう逃げ口上があるのはわかる。実際、原告はそういう表現を使ったんだからしょうがないじゃん、あるいは問題ないじゃん、ってことね。だけど、もしもそんなことを言いだすのだとしたら、なお情けない。こういう理念に属するような事柄を、そういう嫌らしい口実に使うことで貶めちゃダメだと思うんだけどね。自分の首を絞める行為な訳だし。そうじゃなくてもゲスのやることじゃないでしょうかね。


特にこういう誤解がありがちな表現については、もっと慎重になるべきですよね。「無断引用」って表現がおかしいのかどうかということについては、今でも理解が混乱してそうな話なわけです。つい昨年ぐらいまで、メディアだって平気で「無断引用」とか書いてたと思うんですよ。少なくとも、一般の読者は今もよくわかってない人が多いでしょうし。そういう場合は注釈などを入れるか、それができないなら避けた方がいいと思うんですけどね。


なんかね、マスメディアの一部にある「投げやりさ」の現れのような気がして。……考え過ぎかなあ。もっと単純に、使っちゃった3社会社の「整理部の実力が露呈」ってことなのかなあ。いやまあ、明らかにおかしいとも言えないですけどね……。


行列の弁護士だから、これからテレビや週刊誌とかにも出てくるかもですね。どう表現されるんでしょうね。


    ◆
以下、ついでに引用について。以前書いたものの流用です。

いま、ぱっと参照できる簡潔でわかりやすい解説がないので、自分の理解している範囲で書きますが、引用と認められるためには、およそ次のような要件が必要です。

  • 公表された著作物からの引用であること(隠してあったものを引用しちゃダメ(^^;;)
  • 出所の明示(出典や権利者の明示と言ってもいいかも。作品名・作者名・媒体名・出版社名等)
  • 同一性の保持(勝手に改変していないこと)
  • 引用部分とそれ以外が明確に区別できること
  • 引用部分が従であること
  • 引用する必然性があること(論評のためとかなんとか。紹介したいってだけでは足りない)
  • 必要最小限の引用であること

こうした点を全部クリアできていて、はじめて「引用」なんですよね。そうでなかったら、上記の「無断転載」だったり「複製」「盗作」「捏造・改ざん」だったり、ケースバイケースですけど、引用じゃないなにか別の行為。
PSJ渋谷研究所X: 海外サイト記事の翻訳公開について【追記あり】

もっと詳しい説明については下記とかを参照。


引用する際に著作権者に断らなければならないなんてことはないわけですけど、引用の範囲を超えるなら、あるいは引用とは違う形で利用するなら断らなければならないことはいくらもあると思います。


     ◆
8/26 03:05追記
ブログ「Copy & Copyright Diary」さんは、原告たちはこの表現を使っていないと判断しておいでだ。

また、Twitterでも「毎日新聞の記事だと、まるで、原告である弁護士が「無断引用」という語を使っているような記述。これは原告の弁護士が著作権法の知識が無い、という誹謗中傷を行っているようなものだよ。」と指摘しておられる。


マスメディアが、取材対象が使っていなかった言葉を報道中で使うことがないかというと、そりゃあそんなことはない。しかし、その場合に発言の直接的な引用と見えてしまう「 」囲みをするかというと、現場感覚としてはしないだろうと思ってしまう。そのためぼくは「知財情報局」経由で原告のWebサイト(http://www.kabarai.net/adire_news/index.html)や訴状を読み、サイト上や訴状ではこの表現を使っていないことを確認したにも関わらず、コメント欄に書いたように記者発表などの口頭で使ってしまった可能性を考えてしまっている。


けれど、その推測は間違っているのかもしれない(毎日新聞共同通信ないし当該記事を書いた記者か整理部は、そこら辺の感覚もぼくとは違うのかもしれない)。もしもそうだとすると、標題の疑問について、このケースを元に考えるのは無理がある(マスメディアの単なる間違いの話になってしまう)。そればかりか、原告へのネガティブキャンペーンに加担して、原告の方々を侮辱してしまったようなものだ。誠に申し訳ない。


また、「Copy & Copyright Diary」さん周辺のTImeLine(ていうのかな?)によると、NHK TVでの報道でも「無断引用」という表現が用いられていた模様。まさかに「Copy & Copyright Diary」さん記事へのブックマークにあった、「著作権法に反して無断引用を禁じたい新聞社の意図が表出した記事。」という評価が正しい、なんてこともなかろうとは思うのだけど……。


しかし、わざわざ使っていない誤った語彙に置き換えているのだとすれば、本当に勘弁してほしいなあ……。