小学校3年生か4年生ぐらいの理科では、こんな実験をします。
ビーカーに水を入れ、バーナーで熱し、水のようすを観察しながら温度計で水温を測る……「何度でお湯が湧くか(水の沸点は何度か)」を確認するというような目的の実験ですね。
××分×秒で湯気が出て来た、いま××度だ。ぷくぷくと泡が出てきた、××度だ。100度だ! ぼこぼに激しく泡が出てるぞ! なんて展開が期待されているわけですね、きっと。
覚えている方もおいででしょうね。でも、「実際に100度でお湯が沸いた」っていう方って、どんぐらいいるのでしょうね。
というのは、何年か前にムスメの担任の先生に聞いたのですが、教室では沸騰したときの水温が100度にならない子どもが続出しているそうなんです。
●先生も困ってるらしい
1、2度違う程度ならともかく、たとえば90度ちょいで沸騰したという子どもなども出てきちゃったりするので、クラス全体で平均を求めても全然100度にならなかったりもするそうです。40人程度とはいえ数班にわかれてですし、みんな一緒に実験するわけですから、変な結果ばっかりってこともありそうですね。
ほとんどの場合、学校での実験では水道水を使って行われるでしょうし、ビーカーや温度計の洗浄もおざなりでしょう。前に使った薬品が完全に落ちていない、なんてこともあり得るわけです。ですから、水に、目に見えない程度の異物が混入するのでしょう。それ以外の要因もあるのかもしれません。いずれにしても実験環境の精度みたいな問題で、実験技術の問題ではありませんよね。
教室では「それは間違っている、きっとお前のやり方が悪いのだ」などとはならず、「みんなが体験したことは、それはそれでオッケー」とするのだそうです(個人的体験は否定できないですし、前述のようにそもそも子どもたちに問題があるわけではなさそうですから、当然と言えば当然です。実は別の理由だとしても)。
ただ、その後で「教科書を見てみよう。お湯が沸くのは100度だと書いてあるね。これを覚えてね」なんていう木に竹を繋いだような説明や、「エラい人たちが確かめた」みたいな話とかでお茶をにごすことが、どうしても多くなるそうなんです。
小学校の先生にお話を伺うと、こういう実験で、先生が説明に苦慮するといったシーンは日常的に展開されているそうなのです。
これがマズい説明ってことは、先生方もわかってる。
「じゃあ、実験なんかしないで、教科書見てればよかったじゃん」みたいな反応だって容易に想像できますもんね。
●保護者ももっと困るらしい
もっと困ったのが、保護者会で聞いた話。
あるお母さんが言うんです。
ご家庭で息子さんの復習につきあっていたときの話だそうなんですが、この件でテストで×をもらっちゃった。
「ぼくは実験のときに98度でお湯がわいた。だからそれを書いた」
と息子さんが言うんだそうなんです(温度はうろ覚えです)。自分の観察結果はちゃんと覚えている。でも、それは正解ではない。
お母さん、説明に困ってしまったそうです。保護者会でも、「なんていえばよかったんでしょうか」という形で話題にされていたと思います。
先生の話の一部は、この質問に応える形で聞いたんです。詳しいところは後で個人的に面談かなんかで聞いたんですけどね。
んで、ひょっとして、ちょっと発想を変えてみるのがよいのではないか、と思ったことがあったなあ、とさっき思いだしたのです(ああ、ややこしい)。
●それを「ネタにする」のはいかがでしょう
たとえば「条件を整えることの重要性」や、「ひとつの事実を確かめるのは大変なのだ」ということを知るチャンスとして使う、というのはどうでしょう?
実験のあと、子どもたちが結果を発表します。100度にならない子どももいます。そしたら「××度から××度ですね。みんな、だいたい100度前後になりましたね。実は、こういう実験は世界中で何度も何度も行われていて、『水が沸騰するのはちょうど100度』ということが知られています」なんていう話から始めるわけです。
実際問題、平均を出したら100度になったとしても、もとは多数決で沸点を決めたわけではないはずで、理想的な環境下で確認すると誰がやっても常に100度になるわけですよね、きっと(前述のwikipediaでも「水の沸点(標準状態下)」って書いてありましたし、1気圧のとき、とか、そういうのも入るわけですよね。山の上などで気圧が下がると沸点が下がるとか、あれですよね、多分。なんでそうなのかは、ここの「2」がわかりやすかった。不意に「まさか、水の沸点を基準に100度を定めたんじゃないだろうな」と不安になって調べたけど、そういうことはなさそうで一安心)。
んで、そんな話をして、不純物が入ると沸点が変わるんだったら、不純物を避けるためにはなにをすればいいんだろう、なんて考えてみることもできる。蒸留水を用いるとか、清潔にする(そういえば理科の先生は白衣を着てる。関係あるのかな。服を汚さないためもあるか?)とか、ビーカーなど器具は徹底的に洗う、器具を素手で持たないとか、そうだ手を洗おうとかとか、子どもたちだっていろいろ考えつくと思うんですよね。
学校では「水の沸点は100度」という「知識を覚えてほしい」のでしょうから、あまり脇筋に入るとまずいでしょう。だけれども、「道具立てが実験っぽければ実験なんじゃない」とか「条件を整えるって大事よ」とかってことは、折りに触れて知る機会があるといいなあとか、「水の沸点は100度」みたいに「××は○○」と言われている「定説はどうやって確かめられたのか、どうやって共有されたのか」なんてことを、身近でわかりやすく話題にできるといいなあ、と『水伝FAQ』を書いていて、思ったのであります。はい。
●余談
これを書くために、さっきちょっとごそごそググって見つけたネタも、少しご披露しましょう。
「水になんかが混ざってると沸点は100度にならない」ってことでは、このブログ記事がおもしろかったです。
飲料水の沸点を調べたい (●ロバラヂオ● 2005/12/27)
なにやってんだ(^◇^;) こういうの好き(^^
コメント欄は、ふつうに勉強になります。
次はビックリした話。
この定義により、水の沸点はちょうど100°Cから99.974°Cに変更された。
ま、0.03°Cなんてすげえ細かいところ簡単には測れないし、事実上100°Cでいいんでしょうけど、知らなかったよ。びっくりしたよ。
2008/02/09追記:
鈴柩さんが、「小学校でもできそうな方法」を模索しつつ実験してくれました!
水の沸点を100℃にする方法(日々の戯れ 2008/02/09)
みごとに100度になってます! いやあ、空冷の冷却力、侮り難しですねえ。
今年から、みんな悩まなくてよくなるといいですね!(^^)